“伝えたいもの”が並ぶお店。-美観堂-

「去年までは、東京のアパレル店で働いてました。今こんな風に倉敷にいるなんて、人生なにがあるかわからないですね」

そう言って朗らかに笑うのは、蓮見夏季さん。倉敷・美観地区にある「美観堂」の店長をつとめる女性です。

美観堂は「岡山と倉敷のほんとうにいいもの」を扱うライフスタイルショップとして、今年の6月にオープンしたばかり。お店の誕生の裏側には、蓮見さんの「人の縁」に導かれた物語がありました。

さあ、美観堂が生まれるまでを、蓮見さんの歩みとともに追っていきましょう。

 

「岡山と倉敷のほんとうにいいもの」を集めたお店

1▲数年間、空き家だった美観地区の建物を改装し、2017年6月オープン。向かって左隣は姉妹店のゲストハウス「有鄰庵」

【美観堂データ】
住所:岡山県倉敷市本町2-15
電話番号:086-486-2224
ホームページ:https://bikando.jp/

 

だんご
まず、美観堂の成り立ちについて教えてください。

 

蓮見さん
私たちの会社は2011年から、美観地区で「有鄰庵」というゲストハウスを営業していました。その有鄰庵の隣に新しくショップとしてオープンしたのが「美観堂」です。
ゲストハウスって、外からいろんなお客さんがやって来る場所ですよね。だから、「地域に埋もれているいいものを、外に向けて発信しよう」というコンセプトの元、現代表の犬養拓がショップを発案したんです。

 

だんご
「いいもの」というのは、具体的に何か基準があるんですか?

 

蓮見さん
まずは、犬養や私が実際に食べたり試したりして「いいな、おいしいな」と思ったもの。そして、生産者や会社の方に会って話を聞き、納得がいったものですね。

 

だんご
扱う商品は、すべて作り手さんに会われているということですか?

 

蓮見さん
会社の場合は代表の方の場合もありますけど、すべて自分たちの足で訪ねて、お話を聞いた上で商品を仕入れています。

 

だんご
そうやって、直接作り手さんに会う理由は何なんでしょうか。

 

蓮見さん
お会いすると、作り手さんの「人となり」が見えますよね。すると、お店でお客さんに商品をおすすめしやすくなるんですよ。
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蓮見さん
例えば、「ノリノリキング」と「ノリノリクイーン」っていう商品があるんです。

パッケージがサーフボードに乗ったキングとクイーン。で、商品を作っている人も金髪のサーファーみたいな方なんです。お店で商品を説明するときに「このパッケージのイメージそのままの人が作ってるんですよ!」というと、お客さんも興味を持ってくれるんです。

単に商品がこういう味で、こういう素材で、と話すよりも「作り手がこんな人で〜」というところまで話せる方が、誠実だし、お客さんも楽しいと思うんですよ。せっかくお店に来ていただいたからには、お客さんに楽しんで帰っていただくて。

 

だんご
なるほど。作り手さんを知っていると、お客さんへの説明も説得力が増す気がしますね。

 

蓮見さん
自分が「これ、いい!」と思うものって、人にすすめたくなるじゃないですか。だから「売りたい!」というより、「ほんとうにいいものだから食べてみて!」という自然な感情でお客さんにおすすめできるんです。

売りたいだけでお客さんとお話ししていると、きっと伝わっちゃうと思うんですよね。

だから、美観堂で扱うのは「いいもの」といいつつ、私たちが「伝えたいもの」なんだと思います。

 

もともとはゲストハウスのリピーターだった

 

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だんご
美観堂はゲストハウス「有鄰庵」から生まれたということですが、蓮見さんは、最初は有鄰庵のスタッフだったんでしょうか?

 

蓮見さん
いえ、ただの有鄰庵のリピーターでした(笑)。
だんご
そうなんですか⁉︎

 

蓮見さん
出身も埼玉で、関東にずっと住んでいたんです。岡山には、2013年くらいに初めて旅行で来て。

その時は倉敷駅前のホテルに宿をとっていて、たまたま有鄰庵の前を通ったんですよね。それまでゲストハウスというものすら知らなかったんですが、妙に有鄰庵が気になって。

帰ってHPを見ても、これは面白そうだぞ、と。それで、半年後に再び倉敷に来て、有鄰庵に泊まりました。すると、すっかり好きになっちゃったんです。

 

だんご
どんな点に惹かれたんですか?

 

蓮見さん
社会人になると、会社と家の往復になって新しい人間関係ってなかなか生まれませんよね。でも、こんなに知らない人と仲良くなれる場所があるんだと感動したんです。

有鄰庵って、宿泊客がほぼ同じタイミングでチェックインするんです。しかも、くるま座になってそれぞれ自己紹介をします。

その後、他のゲストハウスも行くようになって、そんなことをするのは有鄰庵だけだと気づいたんですけど(笑)。スタッフと仲良くなれるゲストハウスは多いですが、有鄰庵は宿泊客とスタッフすらきっちり線引きせずに、みんなで仲良く楽しもう、というスタイル。

すごく交流を大事にしているんですよね。そこが気に入って。

 

だんご
たしかに独特ですね。それ以来、有鄰庵に通うようになったと。ここからどう美観堂につながるんでしょうか……?

 

蓮見さん
この後、怒涛の展開になります(笑)。

 

「はすみん、これちょうどいいんじゃない?」

 

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蓮見さん
当時は、東京の池袋でアパレルの販売員をやってたんです。でも、入社3年と少しで辞めて、次の仕事が見つかるまで有鄰庵でヘルパーをやろうと思ったんですよ。

※ヘルパー……ゲストハウスの仕事を手伝う代わりに、有鄰庵もしくは美観地区内のゲストハウスに無料で滞在できる制度のこと。通常、3週間〜1ヶ月程度の短期間が多い。

「ヘルパーやりたいです!」と有鄰庵に行ったら、ちょうど「地域おこし協力隊」の募集をしていたんです。普通、地域おこし協力隊は役場の臨時職員扱いが多いんですけど、倉敷の場合は事業所への配属があったんですね。その配属先の一つが有鄰庵を運営する株式会社有鄰で。

「はすみん、ヘルパーよりも地域おこし協力隊として来るのがちょうどいいんじゃない?」と紹介してもらったので、「次の仕事も決まってないし、ちょうどいいのでは!」と思い、応募しました。

 

だんご
ずいぶん急な展開ですね!

 

蓮見さん
そうですね。でも、しっくりきたんです。次の転職先は埼玉と東京以外にしようと思っていましたし、有鄰庵の人たちと働けるなら楽しそうだなと。

ただ、両親はびっくりしたでしょうね。急に娘が仕事を辞めて「岡山で働くことになりそうだ」と言い出したんですから(笑)。でも、「自分で決めたならいいんじゃない」と言ってくれて。地域おこし協力隊の面接にも受かり、倉敷へ来ることになりました。2016年の8月のことですね。

 

6▲有鄰庵のカフェの看板メニュー「たまごかけごはん」に使われているオリジナルの「黄ニラしょうゆ」

 

だんご
その時点で、美観堂はあったんですか?

 

蓮見さん
コンセプトだけがあって、建物もまだ正式に借りられていなくて(笑)。立ち上げをやる人がいなかったんですね。そこのポジションに私がピタッとはまったんです。

 

だんご
では、それから1年弱でお店を借り、扱う商品を決め、改装工事をして……ということですよね。時間が足りなそうな気がしますが。

 

蓮見さん
そうですね……それからはあっという間で。半年くらいかけて犬養と二人で岡山じゅうの生産者さんのところを回って、今年の4月から一気にお店づくりを始めました。

その時にいた美観堂のスタッフは私一人。有鄰庵の人も手伝ってはくれましたが、一人でお店の内装とディスプレイを考えて……今もう一回やってと言われても無理だと思います。

 

だんご
とっても大変に思えますけど、楽しそうにお話されますよね。
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蓮見さん
うちの犬養が、仕事を任せてくれる上司なんです。スタッフ自身で考えて行動させてくれるので、すごく面白がりながら仕事ができて。大変でしたけど、面白かったからできたんですよ。

 

だんご
有鄰庵も美観堂も、スタッフさんの雰囲気がいいですよね。明るくて、すごくいい距離感で接してくれる気がします。

 

蓮見さん
手前味噌で恥ずかしいんですけど、いい人ばっかりなんですよ。人に恵まれたから、こうして自然に楽しく働けてるのかなと。

有鄰庵を気に入ったのも、私が人と接するのが好きだからだと思うんです。だから、生産者さんやお客さんと、人と人とのつながりを作る美観堂の仕事は面白いですね。

 

だんご
岡山という土地に対する印象は、移住して来て変化はありましたか?

 

蓮見さん
移り住む前は、倉敷市と岡山市しか行ったことがなかったんです。生産者さん巡りで県内をまわって、いろんな岡山を知りましたね。

例えば、津山や蒜山のような北部は、南部とはいろんな違いがあって。南北に広いがゆえの土地ごとの個性が面白いなって思います。

岡山に所縁があったわけでもなくて、本当にたまたま、友人との旅行先に選んだのがきっかけで。今思うと、その友人に感謝しなくちゃいけませんね。

 

だんご
その方も、美観堂の生みの親の一人といえますね。

 

蓮見さん
そうですね(笑)。これから、広い岡山からもっといろんな「いいもの」を見つけて、商品をますます充実させていこうと思っています。美観地区に来たら、ぜひ美観堂にも遊びに来てみてくださいね。

 

だんご
本日はありがとうございました!
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友光だんご

友光だんご

1989年生まれ。岡山県出身。出版社勤務ののち2017年3月より編集者/ライターとして独立。Huuuu所属。インタビューが好きです。

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