「本を楽しむコツ」に出会える本屋さん-451ブックス-

児島湖にほど近い住宅街の一角に、目を引く青色の建物があります。

入り口のガラス戸を開けると出迎えてくれるのは、らせん階段とたくさんの本。壁一面のみならず、階段の途中にも、建物の梁にも、ところ狭しと本が並べられています。

ここは「451ブックス」という本屋さん。ただし、ふつうの本屋だと思って行くと、少し驚いてしまうかもしれません。

451ブックスにはベストセラーの新刊や雑誌、漫画のたぐいはほとんどありません。代わりに並ぶのはたくさんの絵本と洋書、アート本やリトルプレス。よくよく探せば、単行本や古本も。それらがコーナーで分けられることなく、混ぜこぜに棚に収められています。

ともすれば雑然としかねないはずなのに、不思議な統一感のある空間が生まれている451ブックス。その雰囲気は、まるで森の中のようです。木々の向こうにひそむ動物や鳥たちのように、棚の間から、私たちを待ちわびているたくさんの本当の出会いの気配を感じます。

この空間をつくった人は一体どんな人なのでしょう? 451ブックスの店主である根木慶太郎(ねき・けいたろう)さんにお話を聞いてみました。

 

本にはいろんな楽しみ方がある

 

だんご
451ブックスさんの本棚って独特な並べ方をしていますよね。

 

根木さん
そうですね。うちでは「探してみないとわからない」ような本の置き方をしています。もちろん並べるルールはあるんですが、どこにどの本があるか、いっさい書いてない。
洋書と和書を同じ棚に並べているし、古本と新刊ですら区別していません。どうしてかというと、本との出会いを楽しんでほしいからなんです。

 

だんご
すべてがフラットに並んでいるからこそ、偶然の出会いが生まれますね。ふだんは手に取らないような本も、なぜか目について読んでしまいました。

 

根木さん
思いがけない出会いって楽しいじゃないですか。同じ作家の作品を順に読んでいくように、芋づる式に本がつながるのもいい。
読み方だって自由です。早くても遅くても、別に1冊の本を最初から最後まできっちり読みきらなくてもいい。

 

だんご
読書家の方ほどそうかもしれませんね。

 

根木さん
何冊も並行して読んだり、オチだけ読んだりしちゃうのだってあり(笑)。本の楽しみ方は自由。だから面白いんですよ。

 

絵本は大人も楽しめる

だんご
扱う本としては、とくに絵本が多いですよね。なぜでしょう?

 

根木さん
絵本は絵が中心で気軽に楽しめますし、実は下手な小説よりも奥が深いんですよ。そのことに気づいてから、大人向けに絵本を置くようになりました。

 

だんご
大人向け、ですか?

 

根木さん
はい。 例えば「はじめてのおつかい」という絵本を例に挙げましょう。タイトルの通り、小さな女の子が初めておつかいへ行くのですが、その行く道すがらに「猫を探しています」と書いた貼り紙があります。

 

 

根木さん
この貼り紙の電話番号は、版元である福音館書店の当時のもの。本当につながったらしくて、電話した子もいるらしいですよ。「猫を見つけました!」って。
貼り紙に書いてある名前も、絵本の担当編集者さんの名前。書き込んである言葉ぜんぶに、ちゃんと意味があるんです。「探しています」という猫も、絵本のどこかにちゃんといるので、よく探せば見つけることができます。

 

だんご
仕掛けがたくさんあるんですね。小さい頃に僕も読みましたが、そこまで気がつかなかったです…。

 

根木さん
ね、面白いでしょう。これは単純だから子どもでもわかりますけど、次は大人じゃないとわからない例を紹介しましょう。『もりのなか』という絵本です。

 

 

根木さん
子どもが森の中に出かけて、いろんな動物たちと遊ぶお話です。作者はマリー・ホール・エッツという女性なのですが、実はこの絵本を書く前年に、ご主人を亡くしていて。
絵本で描かれている森は、シカゴの郊外の風景。ご主人はガンで療養生活をしていて、よく作者と二人で森を散歩していたんですね。その時の思い出が、作品に込められているんです。

 

だんご
絵本を読んだだけでは、そのことはわかりませんね。知った上で読むと、まったく見え方が変わってくるような。

 

根木さん
絵本を描いているのは大人ですから、実はいろんな背景や思いが込められています。だから絵本は大人が読んでも楽しめるんですよ。
こんな風に「大人の方が絵本は楽しいんだよ」ということを伝えるために、毎年3〜11月に隔月で「大人のための絵本講座」を開いています。
もちろん、うちで絵本を買った人には、楽しむためのポイントをその場で教えてさしあげますよ。絵本は値段も手頃ですし、大人の方にももっと読んでほしいですね。

 

本を巡る状況 本離れ、イベントの話

だんご
お店での販売以外に、本のネット販売もされていますよね。

 

根木さん
うちは古本のネット販売から始めたんです。元々、私は住宅メーカーで建築士の仕事をしていたんですが、サラリーマンが嫌になって(笑)。
会社を辞めてネットで好きな本を販売したら意外と売れたんですね。それで、本を扱うならやっぱり実店舗も必要だろう、とここを始めました。

 

だんご
最初からこの建物だったんですか?

 

根木さん
はい、ここは私が設計したんですよ。

 

だんご
ええ!ユニークな建物だなとは思っていましたが…。

 

根木さん
店を始めたのは12年前かな。初めは古本だけだったんですが、徐々に新刊も扱うようになりました。といっても取次は通さず、出版社に直接連絡をして本を仕入れる「直取引」で。

 

だんご
取次の会社を通すと、自分の好きな本だけを仕入れるというのは難しいんですよね。

 

根木さん
そうですね。当時は直取引をする小さな本屋は珍しかったですから、出版社から断られることも多かったです。最近では小さな本屋専門の取次もありますから、ずいぶんやりやすくなったと思いますよ。
小さな本屋も増えてはいますが、本屋をめぐる状況としては厳しいです。業界としては縮小傾向にありますから。だから、もっとお店に来てもらうために、ブックイベントも始めました。

 


▲2017年10月27〜28日に岡山大学Jテラスカフェで開催された「瀬戸内ブッククルーズ イチョウ並木の本まつり」。県内外の書店や出版社が集まり、計31ブースが軒を連ねた

 

根木さん
知り合いの本屋さんに声をかけて始めた「瀬戸内ブッククルーズ」は2年目になります。ブックマルシェのほかに、本にまつわるトークイベントも開催していますよ。
うちだけじゃなく、いろんな本屋や出版社の人とリアルで交流をすることが「本を選ぶ」体験を楽しむきっかけになればいいなと思っています。

 

だんご
最後に、根木さんの考える「読書」の魅力ってなんでしょうか。

 

根木さん
今って、我々が見たり聞いたりする情報がとても増えましたよね。テレビやネットで日々いろんな情報が入って来るけど、その分、正しい情報を見極めることは難しくなっていると思います。
その時に重要なのが、自分の頭で考えること。そのために、本を読むことはきっと役に立つと思っています。
ぜひ気軽にお店に遊びに来て、本当の出会いを楽しんでほしいですね。

 

だんご
1冊の本との出会いで人生が変わったりしますしね。たくさんの方に、451ブックスで素敵な1冊に出会ってもらいたいと思います。
本日はありがとうございました!

 

【451ブックスデータ】
住所:岡山県玉野市八浜町見石1607−5
電話番号:0863-51-2920

 

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友光だんご

友光だんご

1989年生まれ。岡山県出身。出版社勤務ののち2017年3月より編集者/ライターとして独立。Huuuu所属。インタビューが好きです。

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